幻の縁山声明CD
2023年10月17日、自転車で茨城県下妻市を訪れました。市役所のすぐ近く、「多賀谷城跡公園」の南東隣に位置する新古書店、ブックオフ下妻市役所前店(看板を見るまで、その存在を把握しておりませんでした)に立ち寄りまして、次の浄土宗声明CD(二枚組。帯ナシ)を購入しました。
縁山声明 津田徳翁の心
響玅
大本山増上寺 教授師 津田徳翁
np., nd.
[VTT-3721]
Recording at VANRYUJI STUDIO
一見、「緑山」かと思いましたが、「緑」でなく「縁」です。「縁山(えんざん)」は、三縁山広度院増上寺の略称です。
表題の「響玅」というのは、翻字がこれで果たして正しいものか否か、実のところ判然としておりません。「響竗」のようにも見えなくもありませんが、意味をなすようにも思われません。また、「響鈔」と読むにはカネ偏に無理がありそうです。もっとも、これをいえば「響玅」の「玄」も、最後の筆画がトメでなくハネですので、かなり無理ぎみではあるのですが...
ともかくディスク情報を確認してみよう、とネット検索を試みてみました。ところが、ネット上には当該CDに関する情報が、まったく見当たりません。ネット検索に掛からないということは、世間的には存在しないも同然の扱いです。もちろん、「響玅」で正しいかどうかも分かりません。
これは いかなこと、ということで、とりあえずBing博士に「縁山声明 響玅」につき質問してみました。すると、ただちに次のありがたい回答を得ることができました。
「縁山声明」とは、浄土宗の声明の一つで、増上寺に伝わる声明の一つです。縁山声明は、大原流を継承しつつも、旋律は大原流とまったく趣きを異にした独特な旋律唱法を生み出したとされています。一方、「響玅」とは、浄土宗のお経の一つで、阿弥陀如来を讃えるお経です。
おお、と思わず納得しかけてしまいましたが、念のため、更に質問を重ねてみますと、
「響玅」とは、浄土宗のお経の一つで、阿弥陀如来を讃えるお経です。このお経は、浄土宗の開祖である法然上人が、自らの教えをまとめた『教行信証』に基づいて作られたもので、法然上人が自らの死期が近づいた際に、弟子たちに説いたとされています。
「響玅」は、阿弥陀如来を讃えることで、人々が阿弥陀如来の慈悲深い心に触れ、救済されることを願って唱えられます。また、「響玅」は、浄土宗の教えを広めるために、法然上人が作ったお経であることから、浄土宗の教えを学ぶ上で重要なものとされています。
とのことで、甚だ遺憾ですが回答は信頼できないと確信することができました次第。
それはともかくとして、「縁山声明」につきましては、『新纂浄土宗大辞典』「声明」三「増上寺に伝わる声明」に解説があります。
http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/声明
これによりますと、「尊超法親王は、縁山の声明道にも意を注ぎ、叡山古来の声明と縁山当代の声明を比較し、音声の扱い方と節奏等に差隔があったことを伝えている(『浄土宗法式精要』)」との由です。
『新纂浄土宗大辞典』には、津田徳翁師も立項されております。
http://jodoshuzensho.jp/daijiten/index.php/津田徳翁
ここには、「声明の五線譜化を専門家に依頼し、自ら録音して縁山声明の伝承に尽力する」とあります。まさにその録音が、ネット上では存在自体を確認できない幻の当該CDに収録されている、ということなのでしょう。
ちなみに「響玅」という用語は、「浄土宗全書テキストデータベース」にも、「大正新脩大藏經テキストデータベース2015版 (SAT 2015)」にも、掛かりませんでした。
なお、当該CDの「Recording」が行われたとされる「VANRYUJI STUDIO」とは「蟠竜寺スタジオ」のことのようです。このCDの音源は、音質から推測するに、津田徳翁師がノーマイクでラジカセ録音したもののようで、おそらくその録音を「蟠竜寺スタジオ」でデジタル化した、ということであるかと思われます。
「蟠竜寺スタジオ」を擁する蟠竜寺は、目黒不動尊と目黒寄生虫館の中間やや東側に位置しております。目黒方面へ赴く機会がありましたら参詣いたしたいものでございます。もし、ご住職と邂逅できましたら、「響玅」について教えていただくことができるかも知れません。
この翻字が「響玅」でないとすれば、「響鈔」ということとなりそうですが、「響鈔」というのは、モンゴル帝国は元朝時代の漢語俗語で、金属製貨幣、すなわち銅銭や銀貨を指すものなのだそうです。要するに、紙幣である「交鈔」に対し、ジャラジャラ音が響くので「響鈔」と称するとの由。
また一つ、勉強になりました。
(2023.10.22.初稿, 2023.11.11.公開)
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