善良両氏 | ||
日本史史料研究会監修による『○○と呼ばれた××』(シリーズではありませんが)の最新刊、
京都、ミネルヴァ書房、二〇二一年二月 ISBN 978-4-623-08994-9 朝廷史に少しでも関心がある方には、まさしく垂涎の書です。私も、本書から、たいへんに多くのことを学ぶことができました。 特に、源氏諸流の中で、一般的には今日に至るまで十分に注目されていたとは言い難い醍醐源氏の一門が、本書において複数個所で採り上げられているのは、まことに欣快至極です。 本書の続編が刊行されることを心より望んでおりますが、個人的な関心では、室町期の親王家・摂関家の「殿上人(雲客)」(木幡、法性寺、八條、月輪などなど)や、西園寺家・三條家の諸大夫として有名な三善氏(□衡、□統という名前の一門)に関する内容が含まれることを期待しております。 この諸大夫三善氏は、鎌倉幕府に仕えた三善康信の後裔(問注所の一門、町野、大田、布施、佐波、飯尾など)とは別の系統で、南北朝・室町期の同時代史料にも、多数、現われますが、系譜を含む基礎情報を、私は把握できておりません(単に先行研究を知らないだけかも知れませんが)。また、諸大夫三善氏は、女官を多く輩出していることでも注目されます。 朝廷における三善氏につきましては、古代ばかりでなく中世における活動についても、より注目されてしかるべきであると思われます。現に、三善氏の出世頭は、平安期の文人官僚として有名な三善清行でなく、正応五年(一二九二)三月三十日に従一位に叙された「善(ゼン)一品」こと、従一位三善忠子(衡子)です。 ちなみに、三善氏の「善(ゼン)氏」に対する(?)「良(リョウ)氏」の良岑氏(良峰氏)の出世頭は、良岑氏の開祖、良岑安世ですが、最も有名な良岑氏人は誰でしょうか。僧正遍照(良岑宗貞)、素性法師(良岑玄利)よりも、むしろ、「すけさん、かくさん」の佐々介三郎良岑淳之であると思われます。「すけさん」の系譜が古代の良岑氏につながっているという保証はありませんが、これも、中世・近世において過去に照射された古代氏族の意外な側面であると言えるでしょう。
(2021年2月1日記. 誤字訂正アリ)
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