この場におきましても、あらためて感謝・御礼申し上げます。
さる方より、拙稿における事実誤認の御指摘がありました。
第56章「ハンガリー 西遷騎馬遊牧民の終着点のテュルク学」に、ルイ・アンビスをハンガリー系と書きましたが、単なる勘違いによるものですので、当該箇所を削除して訂正いたします。
なお、固有名詞のカタカナ表記等につきましては、重版が出るようでしたら、その折に、より適切な表記に改めたいと思います。
【参考】
明石書店の新刊、「エリア・スタディーズ」の第148巻、
『テュルクを知るための61章』
明石書店, 2016.8.
ISBN 978-4-7503-4396-9
http://www.akashi.co.jp/book/b244171.html
が、昨日、自宅に届きました。
「ユーラシア大陸を舞台に、歴史上活躍してきたテュルク(トルコ)民族。現在も広範な地域に分布して暮らす彼らを、その起源から、言語・文学、世界史上で果たした役割や日本とのかかわりを説明するとともに、包括的に紹介する初めての入門書。」
目次
はじめに(小松久男)
T 記憶と系譜そして信仰
第1章 坂井弘紀 「狼とテュルク 「蒼き狼」の伝説」
U 文学と言語
第2章 坂井弘紀 「オグズ・カガン説話 テュルクの伝説的君主」
第3章 赤坂恒明 「テュルクの系譜 仮想構築された親族関係の体系」
第4章 小笠原弘幸「オスマン朝におけるテュルクの系譜 オグズ伝承から「系譜書」へ」
第5章 坂井弘紀 「シャマニズムとテングリ信仰 テュルクの基層文化」
第6章 坂井弘紀 「祖先崇拝から妖怪まで 目には見えない世界から」
第7章 鈴木宏節 「仏教・マニ教・キリスト教 イスラーム化以前の宗教受容」
コラム1 赤坂恒明 「ユダヤ教徒のテュルク ――クリムチャクとカライム」
第8章 濱田正美 「イスラームの受容 改宗の政治的要因」
第9章 坂井弘紀 「英雄叙事詩 テュルクの口承文芸」
V テュルク系の諸民族
第10章 坂井弘紀 「アルパムス・バトゥル ユーラシアを
第11章 坂井弘紀 「チョラ・バトゥル カザン陥落と悲劇のヒーロー」
第12章 菅原睦 「クタドゥグ・ビリグ テュルク・イスラーム文学の始まり」
第13章 菅原睦 「テュルク諸語の分類 系統樹モデルを越えて」
第14章 菅原睦 「カーシュガリーの『テュルク諸語集成』 最古の「テュルク学」」
第15章 濱田正美 「オスマン語とチャガタイ語 テュルク・イスラーム世界東西の文章語」
第16章 島田志津夫「テュルク語とペルシア語 二つの言語の蜜月」
コラム2 坂井弘紀 「ナスレッディン・ホジャ」
第17章 松長昭 「アゼルバイジャン人(アゼリー人) シーア派が多数派」
W 世界史のなかのテュルク
第18章 清水由里子「ウイグル人 中国最大のテュルク系民族」
第19章 塩谷哲史 「ウズベク人 多様性と共存」
第20章 野田仁 「カザフ人 遊牧政権から中央アジア地域大国へ」
コラム3 塩谷哲史 「カラカルパク人 ――移住の歴史と豊かな口承文芸」
第21章 秋山徹 「キルギス人(クルグズ人) 中央アジアの山岳遊牧民」
第22章 長縄宣博 「タタール人 ロシア人の身近な他者」
第23章 長縄宣博 「クリミア・タタール人 故郷の喪失から生まれた民族」
コラム4 濱本真実 「リトアニアのタタール人、リプカ・タタール」
第24章 塩谷哲史 「トルクメン人 尚武の民」
第25章 新井政美 「トルコ人 「帝国」から「国民国家」へ」
コラム5 石川真作 「ヨーロッパにおけるテュルク ――オールドカマー・ムスリムへの移行」
第26章 野田仁 「バシキール人 南ウラルの勇者」
第27章 赤坂恒明 「トゥバ人 喉歌で世界を魅了するチベット仏教徒のテュルク」
第28章 山下宗久 「サハ人(ヤクート人) テュルク最北東端の民族」
コラム6 赤坂恒明 「日本領南樺太のサハ人――D・ヴィノクロフとイワン・ペトロフ一家」
第29章 赤坂恒明 「チュヴァシ人とガガウズ人 ヨーロッパにおけるキリスト教徒のテュルク」
コラム7 赤坂恒明 「エニセイ・キルギスの後裔とシベリアのテュルク化した民族」
第30章 鈴木宏節 「漢文史料に見えるテュルク 高車の登場」
X イデオロギーと政治
第31章 林俊雄 「ビザンツ史料に見えるテュルク テュルクの外交感覚」
第32章 鈴木宏節 「古代遊牧帝国 突厥の出現」
第33章 鈴木宏節 「ウイグルの興亡 遊牧帝国の変化」
コラム8 濱本真実 「ヴォルガの雄――ブルガルの盛衰」
第34章 濱田正美 「トルキスタンの成立 遊牧民と定住民の融合」
第35章 稲葉穣 「トゥルシュカ インドのテュルク」
コラム9 三浦徹 「カリフを守るテュルク ――中央アジアから来た騎馬兵」
第36章 清水宏祐 「テュルク対ビザンツ マラーズギルトの戦い」
第37章 三浦徹 「エジプトのテュルク マムルーク朝」
第38章 赤坂恒明 「モンゴル帝国とテュルク テュルク世界の拡大に果たした役割」
第39章 濱本真実 「テュルクとロシア 「韃靼人の踊り」と「タタールのくびき」」
第40章 川口琢司 「ティムール朝の興亡 中央アジアと西アジアの統合」
コラム10 川口琢司 「ムガル朝――インドにおけるティムール朝」
第41章 小笠原弘幸「コンスタンティノープルの征服 地中海と黒海の覇者テュルク」
第42章 新井政美 「ウィーン包囲の衝撃 テュルクとヨーロッパ」
第43章 近藤信彰 「イラン史のなかのテュルク 共存と交錯」
第44章 小松久男 「ロシア革命とテュルク 自治の夢とその後」
第45章 永田雄三 「アタテュルク 蒼き狼」
第46章 磯貝真澄 「ガスプリンスキー ロシア的教養を身につけたテュルク系ムスリム知識人」
Y テュルク学 ――テュルクの歴史・言語・文化に関する研究
第47章 長縄宣博 「テュルクかタタールか 民族のかたちをめぐる政治」
第48章 永田雄三 「トガン 東洋学と民族運動」
第49章 新井政美 「汎テュルク主義(汎トルコ主義) 「帝国」との関わりのなかで」
第50章 永田雄三 「トルコにおける民族史の構想 トルコ史テーゼ」
第51章 小野亮介 「汎トゥラン主義 ユーラシアにまたがる遙かな理想」
コラム11 三沢伸生 「民族主義者行動党(MHP)」
第52章 三沢伸生 「テュルク系サミット テュルク系諸国の国際関係」
第53章 菅原睦 「ロシア テュルク学発祥の地」
Z テュルク世界と日本
第54章 濱田正美 「フランス 外交政策と学術」
第55章 永田雄三 「トルコ 国学としての歴史学」
第56章 赤坂恒明 「ハンガリー 西遷騎馬遊牧民の終着点のテュルク学」
第57章 永田雄三 「日本 先達をふりかえる」
第58章 三沢伸生 「戦前日本の大陸政策とテュルク アジア主義との関係」
テュルクを知るための参考文献
第59章 三沢伸生 「在日タタール人 転遷の歴史」
コラム12 坂井弘紀 「ヨーグルトと煎餅」
第60章 赤坂恒明 「日本で活躍したテュルク 在日トルコ・タタール人の戦後」
コラム13 赤坂恒明 「日本人ファンの心をつかんだショル人ボクサー ――勇利アルバチャコフ」
第61章 坂井弘紀 「現代日本に見られるテュルクの表象 イメージか?現実か?」
読者によって関心の対象は異なると思いますが、本書によって、日本語で初めて読むことができるようになった内容もあり、ともかく興味が尽きません。
本書も、同シリーズの、ボルジギン・ブレンサイン編著『内モンゴルを知るための60章』と同じく、買って損はない推奨本です。
なお、本書において、不肖私は、10編(6章と4コラム)を執筆させていただきました。
「なぜアカサカがこんな文を書くのだ?」と思われる御仁もいらっしゃるのでは、と思われますが、心魂を込めて執筆したつもりです。また、例えばコラム6において『外事警察概況』について言及したように、当該分野の研究においては十分に知られていなかった史料を紹介することもできました。
ただし、巻末の参考文献に載せるべきもので、正確な書誌情報を確認しようと思いながら、そのまま忘れてしまっていた文献が複数あることに気付きました。まことに慙愧の至りです。
個人的な感想では、中国の固有テュルク系諸民族、サラル(撒拉族)とユグル(裕固族)が取り上げられなかったことは遺憾に思いますが、紙幅の関係上、止むを得なかったことと拝察いたしております。
それはともかく、テュルク世界の魅力が十分に伝わってくる本書を、少しでも多くの読者が手に取ってくださることを願う次第です。