研究情報 : 十五〜十七世紀のロシアにおけるチンギス家一門

 チンギス・ハン裔の歴史に関心がある向きに、大朗報です。
 所謂タタール三汗国(カザン汗国、アストラハン汗国、クリム汗国)とカシモフ汗国、および、シビル汗国のチンギス一族その他に関する稠密な研究を精力的に行っているロシアの若手研究者、A.V.ベリャコフ Belyakov による、斯界待望の学術書が、遂に刊行されました。
 地方都市リャザンの出版物(発行部数は1000部)ですので、早急の入手は難しいと思われましたが、幸い、ロシア書籍輸入会社「日ソ」にて購入することができました。

ベリャコフ A.V.
十五〜十七世紀のロシアにおけるチンギス家一門 比較文献研究』 
Beliakov 2011
Андрей Васильевич Беляков,
Чингизиды в России XV - XVII веков.
Просопографическое исследование.
Рязань, Издательство 《Рязань. Мір》, 2011.
[ISBN 978-5-904852-07-8]

 内容構成は凡そ次のとおりです。

    第一章 十五〜十七世紀のロシアにおけるチンギス家一門の諸問題についての史学研究史と史料
      第一節 十八世〜二十世紀初における諸問題の研究
      第二節 二十世紀20年代〜70年代初の史学研究史
      第三節 二十世紀第四四半世紀〜二十一世紀初の史学研究史. 外国の史学研究史
      第四節 諸資料の概観
    第二章 人生の道
      第一節 ロシアへのチンギス家一門の出国と、彼らの系譜
    ・オルダのチンギス家一門
    ・カザン王朝
    ・ギレイ
    ・アストラハン王朝
    ・シビル・シバン家一門(クチュモヴィチたち)
    ・ヒヴァ(ウルゲンチ)王朝
    ・カザフ王朝
    ・他のチンギス家一門
    ・偽チンギス家一門
      第二節 チンギス家一門のキリスト教受洗
      第三節 軍務に服するチンギス家一門による婚姻の締結についてのモスクワの政策
    ・キリスト教非受洗チンギス家一門の婚姻
    ・キリスト教受洗チンギス家一門の婚姻
      第四節 チンギス家一門の宮廷勤務
    外交使節たちの応接における出席
    国家的婚礼の諸儀式における参列
    子供の誕生日の機会における祝典
    帝制への戴冠式の儀式における参列
    宗教的諸儀式における参列
    他の国家的諸儀式における参列
    皇帝たちへの諸宣誓, シェルトヴァニヤ шертования
    葬儀における参列
    皇妃(大公妃)たちのもとでの大貴族夫人たち
      第五節 ロシアにおけるチンギス家一門の個別の生涯
      第六節 チンギス家一門の埋葬地
    ・キリスト教非受洗チンギス家一門の埋葬地
    ・キリスト教受洗チンギス家一門の埋葬地
    第三章 軍務に服するチンギス家一門の宮廷
      第一節 諸宮廷の構成とそれらの法的地位
      第二節 十五世紀後半〜十六世紀前半における諸宮廷
      第三節 十六世紀第三四半世紀における諸宮廷
      第四節 十六世紀第四四半世紀における諸宮廷
      第五節 スムータ(内乱)時代におけるチンギス家一門と彼らの諸宮廷
      第六節 十七世紀における諸宮廷
      第七節 軍務に服するチンギス家一門の宮廷の民族構成
    第四章 ロシアにおけるチンギス家一門の物的経済的内容
      第一節 支出
      第二節 ヤサク税 ясак
      第三節 軍事行動における参加に対する一回払いの金銭授与
      第四節 戦利品
      第五節 諸都市からの収入
      第六節 諸都市の地位
      第七節 他の諸都市における居住
      第八節 チンギス家一門の所有地
      第九節 定期的および一時的金銭支払いと現物授与
    第五章 十五〜十七世紀のロシアにおけるチンギス家一門の地位と彼らの国内階層構造
    結論
    附録
      附録1 十五〜十七世紀のロシアにおけるチンギス家一門
      附録2 ロシアにおける、チンギス家一門の姻族たちと彼らの最親近者たち
    文献
    略語一覧表
    人名索引
    目次
 未刊行のロシア語文書史料も多く使用されている本書は、モンゴル帝国解体後のロシアにおけるチンギス・ハン裔に関する重要な先行研究として、必ず参照されるべき基本文献となるでしょう。
 しかし、本書には、テュルク諸語・ペルシア語等の諸史料における関連情報が十分に使用されておりません。著者が今後さらに研究をお深めになられることを、期待いたしております。
 なお、本著者による既発表の学術論文・史料紹介は、甚だ入手し難い学術誌・論集に掲載されていることが多く、現物を見ることが非常に困難ですので、それらを集成した学術書の刊行も望まれます。
(2012.4.27)

 早速、本書の第二章第一節と、拙著『ジュチ裔諸政権史の研究』の付録「ジュチ裔系図」とを対照してみました。学ぶことが多く、後者に若干訂正すべき部分のあることが確認されました。しかし、その一方で、私の解釈とは異なっている部分も少なからず存在しております。
 あらためて原史料を再検討する必要があると認識させられました次第です。
(2012.4.28. 改訂あり)

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