「最北の地に栄えた南朝北畠系≠フ堂上公家 【奥州浪岡氏】」
赤坂恒明

日本史史料研究会監修 神田裕理
ここまでわかった 戦国時代の天皇と公家衆たち 天皇制度は存亡の危機だったのか?』
(洋泉社歴史新書y057
洋泉社, 2015.12, pp.260-280.

【概要】
 戦国時代に朝廷から堂上公家の羽林家の家格を認められて叙任された波岡家(奥州浪岡氏)に関する一般向け概説。考古学をも含めた先行研究の到達点と、学界で未使用の同時代史料から明らかにされた事実等を紹介。


正 誤 表
261頁9行誤:かのようである。この
正:かのようであるが、この
263頁5行誤:浪岡具永(一四八七〜一五五五)の時
正:浪岡具永の時
276頁2行誤:認められていた。波岡家に
正:認められていた。一方、波岡家に

【参考】

201512月、日本の戦国時代における朝廷史に関する、次の「一般啓蒙書」が刊行されました。

日本史史料研究会監修
神田裕理
ここまでわかった 戦国時代の天皇と公家衆たち
天皇制度は存亡の危機だったのか?』
(洋泉社歴史新書y057
洋泉社, 2015.12.
ISBN 978-4-8003-0812-2


はじめに──時代に必要とされていた天皇と公家衆たち(神田裕理)
【第1部】 必死に天皇を守る公家衆たち
渡邊大門「儀式や政務にこだわり時間を支配した天皇 【即位式・改元・大嘗祭】」
水野智之「禁裏で天皇を警護する公家たち 【家門の維持・幕府との分担】」
神田裕理「公家の女性が支える天皇の血脈維持 【後宮女房の役割】」
生駒哲郎「世俗権力に左右される門跡寺院 【門主は天皇家・公家・武家の子弟】」
【第2部】家門・一族の存続をはかる公家たちの知恵
菅原正子「公家の生活基盤を支えていたものは何か 【荘園経営と公家の家僕】」
後藤みち子「武家も重宝した公家の「家業」とは? 【装束の家・和歌の家】」
【第3部】武家とともに時代を動かした天皇・公家
木下昌規「将軍家と天皇家の二つの主人をもつ公家衆がいた 【室町幕府と公家衆の関係】」
遠藤珠紀「朝廷官位を利用しなかった信長、利用した秀吉 【天下人の政治支配】」
久保貴子「豊臣時代からじょじょに朝廷に食い込む家康 【近世朝廷・公家再生への道】」
【第4部】「戦国領主」化した貴族たちの戦い
10中脇聖「摂関家の当主自らが土佐国に下向する 【土佐一条氏】」
11谷口研語「中流公家が国司となって飛騨に土着したが…… 【飛騨姉小路氏】」
12大薮海「幕府から武力を期待された公家衆 【伊勢北畠氏】」
13赤坂恒明「最北の地に栄えた南朝北畠系≠フ堂上公家 【奥州浪岡氏】」
あとがき(日本史史料研究会代表 生駒哲郎)
日本史史料研究会の案内
執筆者紹介
編者紹介

 当該分野における名だたる大研究者や優れた中堅・若手研究者の驥尾(最後の第13章)に、異色のも付させていただきまして、まことにありがたいことでございます。
 本書の記載内容から、も、いろいろと学ばせていただいております。天皇・王権・日本文化・戦国武将等々、歴史に関心のある方々に広くお読みいただけますことを期待いたします。『内モンゴルを知るための60章
』と同様、「購入して損した」と思う人は限りなく少ないことと存じます。
2015.12.17. 改訂あり



波岡家(奥州浪岡氏)に関する小文についての余談

 先々月(二〇一七年三月)中旬、拙稿「最北の地に栄えた南朝北畠系≠フ堂上公家 【奥州浪岡氏】」が載せられている、日本史史料研究会監修 神田裕理ここまでわかった 戦国時代の天皇と公家衆たち 天皇制度は存亡の危機だったのか?』(洋泉社歴史新書y057)(洋泉社, 201512月)について確認したいことがあり、出講先においてネットで検索をかけてみましたところ、某巨大ネット書店(私は現在に至るまで使ったことがなく、将来も利用するつもりはありません)の“レビュー”に、「執筆者のレヴェルはまちまち」と題された昨年八月七日付の文があり、拙稿についても書かれていることに、半年以上を経た後、ようやく気付きました。
    本書p.22では堂上公家を
    「殿上間に昇殿する資格を世襲する公家の「家」」
    羽林家を「大納言・中納言に昇る「家」」
    と説明しているのに(因みに同頁の半家の定義にタイポ)、
    赤坂恒明内蒙古大研究員が奥州浪岡氏を
    「「羽林家」の家格の堂上公家」
    と言っているのは如何か。
    北の最果てにあって昇殿など望むべくもなく
    四位左中将止まりの同氏を
    「堂上公家」「羽林家の家格」などと呼べようはずもあるまい。
 学術論文を書く研究者には自明の事実でありましても、寄稿子のような一般読者には必ずしもそうではない、と確認できる点では、この“レビュー”も、多少、参考になります。
 まず、波岡家(奥州浪岡氏)が「堂上公家」である事実は、拙稿でも紹介されている次の四点の堂上公家列名史料から裏付けられます。
 次に、「羽林家」につきましては、寄稿子が後半部のみ引用している当該書22頁の「羽林家」の語釈には、
    近衛中将・少将を経て、大納言・中納言に昇る「家」。
とあり(なお、「少将・中将を経て、中納言・大納言」とした方が、より適切かと思われます)、「近衛中将・少将を経て」と明記されております。
 あるいは、寄稿子は、公家と公卿の概念の違いを知らず、また、「左中将」が「左近衛中将」・「左近衛権中将」のこととは知らなかったのかも知れません(言うまでもなく、「羽林」とは「近衛府」の唐名です)。
 ともあれ、一般読者に正しく理解していただけるだけの文を書くことができなかったことは、大いに反省すべきです。
 文章そのものに問題がない、という前提の上でですが、学術論文は研究者を読者対象としておりますので、正しく読めなければ、それは読み手の責任です。しかし、一般向けの書籍の場合、執筆者は、読者に誤解を与える書き方をしないようにも留意する必要があるでしょう。
2017.5.3. 改訂あり


 小文「最北の地に栄えた南朝北畠系≠フ堂上公家 奥州浪岡氏」も所載の、
  日本史史料研究会監修 神田裕理編
  『ここまでわかった 戦国時代の天皇と公家衆たち 天皇制度は存亡の危機だったのか?』
   (洋泉社歴史新書y057)(洋泉社, 201512月)
の新装復刊本が、版元を改めて、出版社「文学通信」(https://bungaku-report.com/)から、出版されました。
  日本史史料研究会監修・神田裕理編
  『ここまでわかった 戦国時代の天皇と公家衆たち 天皇制度は存亡の危機だったのか?』
   (日本史史料研究会ブックス004
    ISBN 978-4-909658-33-3
    https://bungaku-report.com/books/ISBN978-4-909658-33-3.html
 本書は、私自身も書店で売られているのをほとんど目にすることがないまま、早々と品切れとなり、版元の洋泉社も消滅してしまい、入手が困難な状況となっておりました。たいへんな朗報と存じます。
 なお、初刊本は、あって然るべき大学図書館にも所蔵されていない状態となっております。早稲田大学図書館にも入っておりません。新装復刊本が、少なくとも、日本国内における文学部・教育学部を擁する大学の図書館すべてに行きわたることを、期待いたしております。
2020.09.12記)



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