トルファン・ムカーム
の9枚組CD

uyγur kilassik muzikisi
turpan muqamliri
維吾爾古典民間音樂
吐魯番木卡姆
《吐魯番木卡姆》編委会[編]
新疆吐魯番地区文化体育局 鄯善縣人民政府文化体育局 聯合録制
民族出版社, 1999.7.
ISRC CN-M06-99-302-00/A・J6
演唱者
シェリプ・サウト šerip sawut 謝日甫・沙吾提
アウト・ロズィマト 'awut rozimät 阿吾提・肉孜買提
アズィズ・ニヤズ 'äziz niyaz 艾則孜・尼亞孜
トゥルスン・イスマイル tursun 'isma'il 吐爾遜・司馬義
アブリヘキム・ホジニヤズ 'ablihekim xojiniyaz 阿不力肯木・霍加尼亞孜
録音時間:計8時間36分30秒
前世紀の1999年に発行されたトルファン・ムカームの9枚組CD箱物を、本年(2025年)1月25日、友人たちの御尽力により、ようやく入手することができました。
ムカーム muqam とは、1930年代中葉以降「ウイグル」と称されることとなるタリム盆地とその周辺地域に居住するテュルク系ムスリム定住民の間に伝えられた古典音楽大系で、カシュガル・ムカーム、イリ・ムカーム、トルファン・ムカーム、クムル・ムカーム、ドーラーン・ムカームが、それぞれの地域・集団に伝承されております。現代ウイグル民族の古典音楽を代表する「十二ムカーム on ikki muqami」は、中華人民共和国の民族文化政策のもとで、カシュガル・ムカームを主体にイリ・ムカームを以て補い成立したものであり、現代中国ではウイグルのムカームは、十二ムカーム、ドーラーン・ムカーム、トルファン・ムカーム、クムル・ムカームの四種類から成るものとされております。これらのムカームのうちトルファン・ムカームは、トルファン地区(現、トルファン市)の、ルクチュン lükčün(魯克沁)を中心とするピチャン pičan(鄯善)県、(旧)トルファン県(現、トルファン市高昌区)、トクスン toqsun(托克遜)県に伝承されている古典音楽大系です。
トルファン・ムカームの発祥地とされるルクチュンは、清代にはトルファン郡王の王府があり、トルファン地区の政治・経済・文化の中心地でした。私は、元朝の王号「柳城王」はルクチュンに由来すると推測しており、この城市に対しては“思い入れ”とまでは言えないものの、それなりに注目しておりました次第ですが、2013年6月26日、「新疆鄯善縣暴力恐怖襲撃案」と漢語で称される不幸・悲惨な事件がルクチュンで起き、それが日本でも大きく報道されたことは、今なお記憶に残るところであります。
さて、届いたCD箱物は、中に曲目解説の冊子があるわけでもなく、9枚のCDの順序さえも分からず、大いに困惑しました。そこで、漢語ネット検索を掛けて本CD集に関する基本情報を調べてみました。当該CD集の存在自体は確認できますが、詳細については判然としません。
とはいえ、このCD集が、どうやら次の書籍に対応しているものであるらしい、ということは推測できました。
《維吾爾古典民間音樂 吐魯番木卡姆》
文化部民族民間文藝發展中心、新疆維吾爾自治区吐魯番地区文化体育局、鄯善縣人民政府文化体育局
北京: 民族出版社, 1999.8.
ISBN:978-7-105-03582-3
甚だ遺憾ながら本書を所持しておりませんので、引き続きネット上から基礎情報を収集すべく、次は日本語で「トルファン・ムカーム」と検索してみましたところ、ウイグル音楽研究者アブドセミ・アブドラフマン(阿不都賽米・阿不都熱合曼)氏の「ウイグル音楽の歴史と現在:十二ムカームを中心に」(https://dsr.nii.ac.jp/music/08uygur.html)が掛かりました。
8-2-2トルファン・ムカーム
トルファン・ムカームは主にトルファン地区のトルファン市、ピチャン(善善)県、トクスン県で伝承されている。十種類のムカームが数えられ、その順序は次の通りである。
@ラク・ムカーム、Aダルダク・ムカーム、Bムシャーヴァラク・ムカーム、Cチャハールガー・ムカーム、Dパンジガー・ムカーム、Eオズハール・ムカーム、Fエジャム・ムカーム、Gオシャク・ムカーム、Hバヤート・ムカーム、Iナヴァー・ムカーム
トルファン・ムカームはダスタン、メシュレップという部分は含まず、ただチョン・ナグマの様式のみで構成される。それぞれのムカームは基本的にムケッディメ、テエゼ、ヌスカ、ジュラ、セネム、チョン・セリケ、ティキットなどの楽曲から構成されている。セネム部分はメシュレップとも呼ばれ、演奏者及び舞踊者がその場の気分や状況によって、ムカームを組み合わせて演奏するのは特徴である。トルファン・パンジガー・ムカームのセネム部分の終わりでナズルコムと言うユーモア(面白い)の舞踊と音楽が披露される。ここで様々な動物の模様や人形を模倣する。
トルファン・ムカームは弦楽器(サタール、ダンブール、ラワープ)で演奏する以外に、ナグラとスナイという吹奏楽器で演奏するのは【が】特徴である。
ところが、ここに挙げられている各ムカームの名称が、当該CD集の各CD盤に記されているのとは完全には合致しておらず、困惑に更に輪をかけます。これは、トルファン・ムカームには伝承された地域によって楽曲に差異があるためなのでしょうか。また、当該CD集に収録されている各ムカーム曲は、擦弦楽器サタールと打楽器の伴奏のみで、撥弦楽器のダンブールとラワープ、吹奏楽器のスナイ sunay は使われておりません。
よって、あらためて漢語ネット検索を掛けなおしてみました。
すると、香港の「中國文化研究院」サイトに、トルファン・ムカームについて、次のように説明されておりました。
維吾爾木卡姆有哪四種地方版本? | 中國文化研究院 - 燦爛的中國文明
https://chiculture.org.hk/tc/china-five-thousand-years/3752
《吐魯番木卡姆》
《吐魯番木卡姆》主要流傳在新疆吐魯番地區的吐魯番市、鄯善縣和托克遜縣。經過初步的比較,《吐魯番木卡姆》是各種地方木卡姆中最接近《十二木卡姆》的一種,兩者間有過長期、頻繁的互相影響,甚至可能有着「同源」的關係。吐魯番地區兩縣一市流傳的《吐魯番木卡姆》,版本大同小異,現能搜集到《拉克木卡姆》、《且比亞特木卡姆》、《木夏吾萊克木卡姆》、《恰爾尕木卡姆》等共11套。每套《吐魯番木卡姆》由「木凱迪滿」、「且克特」、「巴西且克特」、「亞郎且克特」、「朱拉」、「賽乃姆」、「賽勒克」及「尾聲」等8部分組成。11套《吐魯番木卡姆》共含66首樂曲,全部演唱約需十小時。除絲竹相和歌唱之外,還採用鼓吹樂表演的形式,即由一或數支蘇乃依演奏旋律,三對納格拉(鐵鼓)和一支冬巴克(低音鐵鼓)擊節。
ここには、「トルファン地区両県一市に流伝する《トルファン・ムカーム》はヴァージョンは大同小異で、現在、《ラク・ムカーム》、《チャッバヤート・ムカーム》、《ムシャーワラク・ムカーム》、《チャハールガーフ・ムカーム》等の計11組を捜索収集することができる」と記されております。ここから、11種のムカームのうち4種の名称を確認することができますが、これらは、当該CD集のムカーム名とも合致しております。
更に調べてみますと、次のサイトに、トルファン・ムカームを構成する全11種のムカーム名が記載されておりました。
非物質文化遺產:新疆維吾爾木卡姆藝術(下)|木卡姆|維吾爾|新疆_新浪新聞
https://k.sina.com.cn/article_6398107617_17d5b5fe1001003ck7.html
非物質文化遺產:新疆維吾爾木卡姆藝術(下)
2018年01月17日 12:49 麦子說照相
作者:麦子說照相
吐魯番木卡姆是新疆維吾爾木卡姆藝術的重要組成部分,主要流傳于吐魯番地区鄯善縣魯克沁鎭及周邊吐魯番市和托克遜縣。吐魯番木卡姆包括拉克木卡姆、且比亞特木卡姆、木夏吾萊克木卡姆、恰爾尕木卡姆、潘吉尕木卡姆、烏夏克木卡姆、納瓦木卡姆、薩巴木卡姆、依拉克木卡姆、巴雅特木卡姆和多郎木卡姆共計十一个部分。其中的每一套都由木凱迪滿、且克特、巴西且克特、亞郎且克特、朱拉、賽乃姆、賽勒克、尾声等段落組成,十一套總計包括66首樂曲,全部演唱大約需要10个小時。
除了在樂器的伴奏下歌唱之外,吐魯番木卡姆還有一種鼓吹樂的表演形式。所以,吐魯番地区的著名木卡姆藝人既要能操起薩它爾琴自彈自唱,還要能吹得一手好蘇乃依。吐魯番木卡姆中“無鼓不歌、無舞不樂”的藝術特色是古代高昌回鶻王国的音樂遺風。・・・・・
ここに記載されている順序に従って各ムカームを並べますと、次のようになります。
01 ラク・ムカーム 拉克木卡姆
02 チャッバヤート・ムカーム 且比亞特木卡姆
03 ムシャーワラク・ムカーム 木夏吾萊克木卡姆
04 チャハールガーフ・ムカーム 恰爾尕木卡姆
05 パンジガーフ・ムカーム 潘吉尕木卡姆
06 オッシャーク・ムカーム 烏夏克木卡姆
07 ナワー・ムカーム 納瓦木卡姆
08 サバー・ムカーム 薩巴木卡姆
09 イラーク・ムカーム 依拉克木卡姆
10 バヤート・ムカーム 巴雅特木卡姆
11 ドゥラン・ムカーム 多郎木卡姆
当該CD集には、04チャハールガーフ・ムカームと11ドゥラン・ムカームが1枚のCDに収録されておりますので、この順序どおりに並んでいるわけではありませんが、とりあえず次のように整理しておきました。
[CD1] (52.47)
01 ラク・ムカーム rak muqami 拉克木卡姆
[CD2] (57.20)
02 チャッバヤート・ムカーム čäbbayat muqami 且比亞特木卡姆
[CD3] (65.04)
03 ムシャーワラク・ムカーム mušawäräk muqami 木夏吾莱克木卡姆
[CD4] (60.52)
04 チャハールガーフ・ムカーム čähargah muqami 恰爾嘎木卡姆
11 ドゥラン・ムカーム dulan muqami 多郎木卡姆
[CD5] (55.55)
05 パンジガーフ・ムカーム pänjigah muqami 潘及嘎木卡姆
[CD6] (62.56)
06 オッシャーク・ムカーム 'oššaq muqami 烏夏克木卡姆
[CD7] (54.09)
07 ナワー・ムカーム näwa muqami 納瓦木卡姆
[CD8] (51.16)
08 サバー・ムカーム saba muqami 薩巴木卡姆
[CD9] (56.11)
09 イラーク・ムカーム 'iraq muqami 依拉克木卡姆
10 バヤート・ムカーム bayat muqami 巴雅特木卡姆
この整理順で正しいという保証はありませんが、上記の書籍があれば、おそらく“解答”を容易に得ることができるのでしょう。
それはともかくとして、古都ルクチュンではトルファン・ムカーム伝承のための“培訓班”が2015年以降 開催されているとの報道があります。また、ルクチュンは観光地として「ムカーム村」が喧伝され、2023年3月には「第六批中国傳統村落」に列したとの由です。引き続き伝統文化が揺るぎなく伝承されていくことを期待する次第です。
(2025.2.4.記)
トルファン市人民政府サイト(吐魯番市人民政府網)の「トルファン十二ムカームの発祥地を探訪せよ 一つの、歴史文化が濃厚な小さな町」に、トルファン・ムカームに関する簡単な紹介文があります。
探訪吐魯番十二木卡姆發源地 一个歴史文化濃的小鎭
https://www.tlf.gov.cn/tlfs/c106441/201512/0f9e32bac8f84b77b2dd1e6a79a62c0d.shtml
ルクチュンはトルファン十二ムカーム芸術の発祥地であり、トルファン・ムカームとは即ちルクチュン・ムカームを指しており、その歴史の淵源は高昌楽以前の時代にまで遡ることができる。ルクチュン・ムカームは濃郁鮮明な地域特色を備えており、音楽のリズム、旋律、構造形式等の方面において、既に出版発行されている『十二ムカーム』、『ドーラーン・ムカム』とは均しく差異がある。これにより、1996年、ルクチュン・ムカームに対する専門家の発掘・整理を経て、地域特色を備えた『トルファン・ムカーム』という書籍を出版した。ルクチュン・ムカームの最も顕著な特徴は、「鼓なくして歌わず、鼓なくして舞わず、鼓が変われば音楽が変わり、音楽が変われば舞が変わる」ということである。
トルファン・ムカームは「十二」ではありませんが、ここからは少なくとも、トルファン・ムカームに対して「ルクチュン・ムカーム」という呼称も公的に使用されている事実が知られます。
(2025.2.7.付記)
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